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さらなる良医になるためになぜ研究が有用か

更新日:6 日前

本誌をご覧になっている先生方の中には、大学に在籍中で眼科専門医の取得前後の若い先生方もいらっしゃるでしょう。大学では診療・専門医の取得に加えて、臨床・基礎研究を行い、論文を作成し、学位を取得することができます。今回は、研究がその後の眼科医としてのキャリアにどのように役立つか、私の在籍する久留米大学医学部医学研究科のメッセージを紹介したいと思います。

 医師のキャリアには多くの選択肢があります。勤務医や開業医としてさまざまな臨床分野で活躍する道、教育や研究に取り組む選択肢もあります。企業や官公庁で勤務したり、起業する医師も増えています。日本だけでなく世界で活躍する機会もあります。一方、現代の社会・医療環境は変化が大きく、先が読みにくくなっています。どの道に進むにせよ、今後は新たな問題を自ら解決する能力が必要不可欠となるでしょう。

 新たな問題を乗り越えて未来を切り拓く良医となるために必要な力は何でしょうか? その一つの答えが、「動的能力」です。動的能力とは「能力を使いこなす能力」であり、臨床・経営・研究などあらゆるプロフェッショナル業務に必須です。「医師の能力」といえば専門医などの資格が思い浮かびます。このような資格は主に知識や技術の証明であり、「静的能力」の指標です。専門的な静的能力を持っていることはプロの条件ですが、それだけで十分でしょうか?

 世の中には無数の問題があり、前例のない問題にも次々に直面します。限りある静的能力で無数の問題に対処するにはどうすればよいでしょうか? その答えは「組み合わせ」です。動的能力とは、限りある静的能力を組み合わせて無数の問題を解決するための応用力なのです。専門的な静的能力を動的能力により使いこなし、新たな問題を解決することこそ、医師としてのさらなる高みを目指していくために大切です。

 しかし、動的能力を獲得するための決まった勉強法はなく、試験などで直接評価することもできません。どうすればよいでしょうか? 医師にアンケート調査を行ったところ、日常診療ではできない「異質な経験」が動的能力の獲得に重要であることが分かってきました。調査からは、自律的で異質な経験として、「研究」と「留学」が抽出され、そこで得られた動的能力が一生涯有用であることが分かりました。

 動的能力を獲得するためには、問題に正面から取り組み(自律性)、解決するための試行錯誤(無数のバリエーションを生み出すこと)を繰り返す必要があります。しかし、臨床現場はこのトレーニングには必ずしも適しません。臨床では、安全を脅かす試行錯誤は許されません(試行錯誤の制限)。一定の指針や過去の経験則が優先される場面が多くあり、医療チームの指揮系統も重要です(自律性の制限)。

 一方、研究や留学は診療とはまったく異なる経験です。研究課題を解決するためにはさまざまな試みを繰り返さなければなりません(試行錯誤が必須)。自分の努力なしに研究を完成することはありません(自律性が必須)。多くの医師はキャリア初期には静的能力を重視していました。しかし、キャリアを重ねて責任が大きくなるほど動的能力の必要性を痛感していることが分かりました。

 責任ある立場につくと、診療に加えて、経営、組織マネジメントや部下の育成など種々の問題解決も必要になります。これらのほとんどは決まった答えがなく、自ら動的能力を発揮して日々取り組むことがきわめて重要となります。

 もし皆さんが大学で研究をしたら何が起こるでしょうか。研究で得られるのは論文や学位だけではありません。「動的能力」も成果の一つです。研究では計画を立ててから論文をまとめるまでにさまざまな経験をします。自分が行動しなければ起きず、頑張っても思いどおりの結果が出ないことは日常茶飯事です。チーム活動や学会発表でコミュニケーションの難しさを感じる場面もあるでしょう。一方で、仲間の素晴らしさに気づく機会もあります。うまく結果が出て嬉しくなることもあれば、予想外の発見をして心が躍る瞬間もあります。

 研究は何が起こるか分からない冒険なのです。この冒険を通して皆さんは新しい発見や仲間に出会い、世界の最先端が自分の手中にあることを実感するでしょう。すべての体験は臨床とは異質な経験となり、皆さんの中に動的能力として蓄積されます。冒険を終えて臨床現場に戻ったとき、皆さんは同じものを見ても見え方が違うことに気づくでしょう。

 皆さんが身につけた動的能力と静的能力の組み合わせは、さらなる良医となるための「専門的な問題解決力」となり、皆さんの一生の財産となるでしょう。

参考ウェブサイト

・久留米大学ホームページ:医学研究科 https://www.kurume-u.ac.jp/site/gmed/

出典:日本眼科学会雑誌126巻3号

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