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 臨床・研究のトピックス

眼科医会会員の先生方には日頃より大変お世話になっております。令和元年の外来患者は40,707名でした。多数の患者様をご紹介いただき厚く御礼申し上げます。
昨年度より取り組み始めた予約時間順の呼び出しも徐々に浸透し、診察までの待ち時間も短縮し実を結びつつあります。よりよい患者サービス向上に向け教室員一丸となって取り組んでいます。
 本年はコロナウイルスの流行のため当院でも通常診療に制限がかり、先生方へご不便をおかけし大変申し訳ありませんでした。現在、細心の注意を払いつつ、引き続き院内感染防止を徹底しながら、福岡県南唯一の大学病院・特定機能病院として平時の状態に準じて診療を行っています。
コロナウイルスの流行に伴いインターネット回線を使用したテレワークが活発になっています。数年前から当科で導入しているアザレアネット(インターネット回線による久留米診療情報ネットワーク)を用いた病診連携がますます適した社会情勢となってきているように感じています。
 久留米大学病院眼科における専門外来は、前眼部、ぶどう膜、緑内障、黄斑、網膜硝子体(静脈閉塞症、網膜剝離など)、糖尿病網膜症、神経眼科、外眼部、斜視弱視、未熟児があります。当科の専門外来で行っている取り組みについてご紹介いたします。

 

前眼部外来

 前眼部外来は2020年度より毎週水曜に新患および再来の診療をしています。

 角膜移植は、円錐角膜、角膜白斑、角膜ジストロフィに対して2001年からDALK (Deep anterior lamellar keratoplasty) 、水疱性角膜症に対して2010年からDSEAK(Descemet’s stripping automated endothelial keratoplasty)を中心に行っています。角膜潰瘍穿孔に対しては、従来から保存角膜による表層角膜移植を中心に行っています。

 角膜移植の適応とならない水疱性角膜症で上皮欠損を繰り返す例には、羊膜移植を行っています。疼痛緩和、治療用コンタクトレンズからの離脱も期待できますので、よろしければご紹介ください。難治性の眼表面疾患に対する羊膜移植については、久留米大学病院は2017年に他施設に斡旋可能なカテゴリーⅠの認定を受け、羊膜の斡旋を開始しています。今後も羊膜の必要な施設へ羊膜の斡旋を迅速に行って参ります。斡旋の手続きは久留米大学眼科学講座のホームページ(https://www.kurumeeye.com/)に詳細を記載していますのでご覧頂けますと幸いです。

 初発翼状片手術は、従来の方法から侵襲の低い方法に変更しています。難治性再発翼状片手術は羊膜移植を併用し、良好な成績を得ています(Monden Y, et al. Int Med Case Rep J. 2018,2020)。
この他難治性ウイルス性角膜炎の補助診断として、Strip PCRを用いた先進医療を行っています。

 

ぶどう膜炎外来

 当科において1年間のぶどう膜炎の初診患者は80〜90例で、そのうちサルコイドーシスとVogt-小柳-原田病が20%程度を占めています。その他に、急性前部ぶどう膜炎、ヘルペス角膜ぶどう膜炎、その他のウイルスや寄生虫による虹彩炎や網脈絡膜炎など多様な炎症性眼疾患の診断・治療を行っています。

 非感染性ぶどう膜炎と感染性ぶどう膜炎の鑑別には十分に注意するように心がけ、ウイルス性ぶどう膜炎の補助診断として眼内液を用いたStrip PCRを先進医療で行っており、原因ウイルスの迅速診断・治療決定に応用しています。 

 治療は、点眼や内服など基本的な治療に加えて、ガンシクロビル、メトトレキサート硝子体注射や抗TNFα抗体などの生物製剤による治療も行っています。
 近年、眼内悪性リンパ腫や、ニボルマブなど免疫チェックポイント阻害薬による薬剤性ぶどう膜炎の患者数が増加しており、当院血液内科や呼吸器内科、脳神経外科などと積極的に連携して集学的治療を行っています。

 

緑内障外来

 緑内障外来では、週に約100人弱の緑内障患者を診療しています。当科では以前から低侵襲の緑内障手術であるMIGS(micro-invasive-glaucoma-surgery)を積極的に取り入れています。ナイロン糸を用いたスーチャートラベクロトミー眼内法(S-LOT ab interno)やKAHOOK、谷戸式マイクロフックを用いたMIGSをはじめ、小児緑内障などには従来のメタルプローブを用いた線維柱帯切開術(trabeculotomy)も行っています。各術式の成績を統計学的に比較し、積極的に学会報告を行っています。進行した緑内障に対しては従来通りの線維柱帯切除術(trabeculectomy)を、血管新生緑内障等の難治性緑内障に対してはAhmed glaucoma valve(AGV)を用いたロングチューブシャント手術も積極的に取り組んでいます。
令和元年度の手術内訳は線維柱帯切開術が197例で、そのうちMIGSが9割以上を占めています。線維柱帯切除術は75例、ロングチューブシャント手術は28例であり手術件数は増加しています。外来では、マイクロパルス経強膜的毛様体光凝固 (MP-CPC)を導入により、さらなる低侵襲治療を行っています。
また、当科では、診療時間中の眼圧が良好であるにも関わらず視野が進行している症例や正常眼圧緑内障の診断などに対して、入院(1泊2日)での眼圧日内変動検査を積極的に行っています。日中は座位・夜間は仰臥位で眼圧を測定し、実生活での姿勢を考慮した検査を行っています。夜間仰臥位で眼圧上昇を認める症例があり、姿勢を加味した眼圧日内変動検査の重要性を報告しています。

 

黄斑外来

 2020年4~5月には新型コロナウィルスに対する緊急事態宣言が発令され、黄斑外来においても、様々な制約のある環境での診療を余儀なくされました。加齢黄斑変性の治療予定日に来院することができず、残念ながら多量の黄斑下血腫を発症してしまうことも経験しました。幸い、久留米市では新型コロナウィルスの新規感染者は少数であり、黄斑外来も日常診療を取り戻しつつあります。また、8年ぶりに加齢黄斑変性の新薬としてブロルシズマブ(ベオビュ)が発売され、受診回数の少ない「with コロナ」時代の治療薬として当科でも採用しています。当科の加齢黄斑変性の患者数は年々増加しており、今後、アザレアネットを用いた病診連携などの取り組みが必要と考えています。
最近の黄斑に関する臨床研究として、まず、加齢黄斑変性に対するアフリベルセプトの硝子体注射により、多発性の網膜静脈血栓症を発症した4例を報告しました(Haruta M et al, Acta Ophthalmol, 2020)。これらの多発性の網膜静脈血栓症は、動静脈交叉部位とは関係なく発症し、網膜静脈分枝閉塞症とは異なる発症機序であることが推測されます。次に、黄斑疾患として、眼内悪性リンパ腫に続発した黄斑円孔に対して硝子体手術を施行した症例を報告しました(Haruta M et al, Ret Cases Brief Rep, 2020)。最後に、進行した緑内障に伴う乳頭黄斑部の網膜分離症に対し、ブリンゾラミド(エイゾプト)の長期点眼加療が有効であった2例を報告しました(Haruta M et al, Am J Ophthalmol Case Rep, 2020)。

 

網膜硝子体外来・糖尿病網膜症外来

 網膜硝子体外来では主に網膜静脈閉塞症の疾患を診察しています。黄斑浮腫に対しては抗VEGF薬硝子体内注射(1+PRN) を基本に施行しています。病態に応じて光凝固、ステロイド局所注射や硝子体手術を個別に組み合わせて行っています。
 糖尿病網膜症外来では糖尿病黄斑浮腫、増殖糖尿病網膜症、増殖糖尿病網膜症に伴う血管新生緑内障などを治療しています。糖尿病黄斑浮腫に対しては網膜静脈閉塞症同様に抗VEGF薬硝子体内注射を中心に行っています。国内の網膜症専門医と協力して、実臨床での糖尿病黄斑浮腫治療フローチャートを提案しています(Yoshida S et al, Graefes Arch Clin Exp Ophthalmol, 2020)。また黄斑浮腫の重要病態である毛細血管瘤の数やサイズに着目して個別化治療を実践しています。(Mori, K, Yoshida S et al, Graefes Arch Clin Exp Ophthalmol, 2020)
 増殖糖尿病網膜症は適応があれば硝子体手術を積極的に行っています。3D Heads up surgeryが行える「NGENUITY ®」を導入し、患者様への光毒性の軽減などより低侵襲の高精度手術を行うと同時に、若手術者育成にも取り組んでいます。さらに、当科オリジナルの開瞼とドレーピングを同時に行え、感染防御機能の高いリドレープ®を用いることで、より安全でスピーディーな手術治療を実践しています。
 いずれの外来でもFA/IA、広角眼底撮影、OCTや超広角OCT-angiographyなどのイメージング手法を駆使して戦略的に治療方針を決めています。さらに今年度は超広角光干渉断層計・血管造影装置(キャノンOCT-S1)を導入しました。一回の撮影で造影剤を使わずに眼底周辺までの断層像と毛細血管を描出できるようになり、難治性の網膜硝子体疾患の正確な病態把握や高精度手術のために有効活用する予定です。
 裂孔原性網膜剥離、黄斑円孔、黄斑上膜、黄斑下血腫、レンズ脱臼、眼内炎、眼外傷など他の網膜硝子体疾患に対しても、広角観察システムなどを用いた小切開低侵襲硝子体手術を心がけています。当院での裂孔原性網膜剥離の初回復位率は約95%でした。

 

神経眼科外来

 神経眼科では、患者さんの訴えをよく聞き、症状と徴候を正確に捉え、病因と病変部位を特定できるように努めています。そのため神経眼科の基本的な診察や検査はもちろん、最新の画像診断機器やバイオマーカーも駆使して診断しています。また神経眼科が対象とする疾患は、脳神経外科、神経内科、耳鼻科など複数の専門分野にまたがることも多く、他科の専門医との連携を迅速かつ密にしたチーム医療を行っています。

最近の臨床研究としましては、まず原因不明の耳側視野障害として紹介された視神経鼻側部分低形成5例8眼の臨床的特徴をまとめ、視交叉症候群との鑑別にcpRNFL OCTやDM/DDが有用であることを報告しました(Haruta, et al. Eye, 2017)。またRAPDがなく、眼底所見が乏しかったため原因不明とされた薬剤性、浸潤性、虚血性の両眼性球後視神経症の3例を報告し、球後視神経症の早期の診断にGCC OCTが有用であることを報告しました(Haruta, et al. Int Med Case Rep J, 2018)。さらに前部虚血性視神経では、視神経の循環障害に加えて、黄斑部の漿液性網膜剥離により視力低下をきたすこともあることを報告しました(春田ら.眼臨紀, 2018)。最後に視神経炎として長年誤診されていた片眼性網膜変性疾患の1例を報告し、先入観にとらわれずに正確に診断することの重要性を訴えました(春田ら.神経眼科, 2019)。

これからも個々の症例を大切にして診断治療技術を磨き、患者さんを中心とした診療を心がけていきます。

 

外眼部外来

 外眼部外来は主に老人性眼瞼下垂や眼瞼内反、眼窩腫瘍、眼瞼腫瘍の診断と手術加療を行っています。また甲状腺眼症の評価を行い内分泌代謝内科と共診し放射線療法、ステロイドパルス、ステロイド局所投与などの治療を行っております。

 

斜視・弱視外来

斜視・弱視専門外来では2020年度より火曜の午前午後、水曜の午後に外来・手術を行っています。
 斜視治療は、内斜視、外斜視、上下斜視など様々な病型に対応しています。APCT、Synoptophore、プリズムアダプテーションテスト、Titmus stereo test、HESS、9方向眼位等の検査を用います。その上で年齢や視力、両眼視の発達、御本人・御家族の希望を元に、手術適応の有無と手術定量を行っております。手術以外にはプリズム眼鏡を使用した加療も行っています。

 弱視に関しましては、基本的にはアトロピンもしくはサイプレジンを用いた精密屈折検査を行い、必要に応じて眼鏡矯正による治療を行っています。

未熟児網膜症外来

 近年、新生児医療の発達により超低出生体重児(出生体重1000g未満)の生存率が大きく改善したことで、全出生数に対する体出生体重児の割合が増加し、未熟児網膜症診療の重要性は増しています。当科では週2日NICUへの往診を行っています。治療は網膜光凝固術または抗VEGF薬の硝子体内投与を行っています。以前は抗VEGF薬が必要な症例にはベバシズマブをoff-labelで使用しておりましたが、2019年11月にラニビズマブ(ルセンティス®)が未熟児網膜症の治療薬として承認され、現在適応症例に対してはラニビズマブの投与を行っています。また、アフリベルセプトの治験や未熟児網膜症既往症例の網膜構造についての多施設臨床研究にも参加しています。

 

ロービジョン外来

 ロービジョン外来は、福岡県眼科医会スマートサイト(ロービジョンケアネットワーク)の運用開始に先駆け、今年の4月から約10年ぶりに再開することになりました。

ロービジョンとは“成長・発達或いは日常生活・社会生活に何らかの支障を来す視機能または視覚”であると定義され、ありふれた眼疾患の患者が対象となります。診療は1人に対し1-2時間かかるので、月に2回、1人ずつしか診れない状況ですが、問診から補装具と日常生活補助具の選定までの時間を短縮出来るように努力し、効率化を目指します。

また近年、タブレット端末であるiPadやスマートフォンのiPhoneに代表されるICT(imformation and communication technology)機器が新しいロービジョンエイドとして導入されており、当科でも早期に導入してきたいと考えています。

今後も地域医療と眼科学の発展に取り組んで参りたいと思います。先生方の変わらぬご指導、ご鞭撻の程、宜しくお願い申し上げます。

(​2020年福岡県眼科医会報より改変)

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