「直美」とevidence-based medicine
- 久留米大学医学部眼科学教室

- 2025年3月14日
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更新日:1月28日
これまでの「編集室」では、大学で研究することで専門的な問題解決力を養成でき、一生の財産となること(さらなる良医になるためになぜ研究が有用か.第126巻3号掲載)、大学院で得られる学位(甲号・乙号博士)について(甲乙つけがたい.第127巻3号掲載)、また、日本医学会連合が発表した「日本の研究力低下への懸念」を示す要望書について(専門医制度はまだまだ変わるだろう.第128巻3号掲載)述べました。特に、日本の研究力低下には、大学補助金や医療費の抑制、若手医師の研究開始時期の遅延、シーリングによる入局者減少や保険診療外領域への大量流出など、複雑な要因が絡んでいることを指摘しました。このうち、保険診療外領域への流出に関連して近年注目されているのが「直美」という現象です。
研修医が研修期間を終えた後、直接自由診療の美容業界に進む「直美」の背景には、収入面の魅力、ライフスタイルの自由、専門医取得の負担回避、美容医療の需要増加など、いくつかの理由が挙げられます。美容医療は自由診療であり、一般診療に比べ高収益を得やすい業界です。また、病院勤務とは異なり、柔軟な労働時間でプライベートの時間を確保しやすいことも、若い医師にとって魅力的です。さらに、診療科によっては専門医資格取得に長期間を要する一方、美容医療は専門医資格が不要であり、比較的早く独立できる点も大きなメリットです。近年の美容や若返りへの社会的ニーズの高まりも、美容業界が若い医師たちを惹きつける要因となっています。
しかし、その一方で課題も存在します。医師法第17条には「医師でなければ、医業をなしてはならない」と記載されていますが、多くの美容クリニックでは、医師以外の“カウンセラー”による診察や治療内容の提案といった違法行為が横行しているとの指摘があります。また、過剰な契約を迫るため患者が数時間監禁されるといった事例も報道されています。
さらに、美容業界でのキャリアが医師としての評価やスキルに与える影響も懸念されます。美容医療は特定の手技や治療に特化しているため、一般診療や救急医療のスキルが衰え、いざ一般診療に戻りたいと思っても難しい場合があります。また、自由診療では全ての責任を医師自身が負うため、トラブルや訴訟リスクも高くなります。専門医資格を取得しないまま美容医療に進む場合、将来的にキャリア選択肢が制限される可能性も否定できません。
このように「直美」には収入やライフスタイルの面で大きな魅力がありますが、長期的な視点から医師としてのスキルやキャリアの柔軟性を考慮する必要があります。最近、美容外科所属の医師が解剖研修で撮影した献体と思われる写真をSNSに投稿し、医療倫理の観点から問題視されています。慎重なキャリア設計が求められる理由の一つです。
大手美容チェーン店のホームページで診療内容を見ると、二重・目元整形、若返り、女優注射、美容点滴、再生医療、歯列矯正、薄毛治療、不妊治療、成長ホルモン療法など、非常に多岐にわたる治療が提供されています。しかし、美容業界において、evidence-based medicine(EBM)、「根拠に基づく医療」がどれほど実践されているかについては、大いに疑問が残ります。
EBMでは、日常診療における疑問を洗い出し、その疑問を解消する文献を探し、エビデンスの質を確認した上で治療方法を決定します。大学病院などで論文作成能力を鍛えることにより、信頼できる文献を見分ける力が養われます。この過程では文献の批判的読解、データの分析、研究デザインの構築などが求められます。これらは日常診療でも重要な能力であり、患者に最適な治療を提供するためのEBM実践の基盤となります。手術を行うだけで論文を書かない術者は、適応も結果も独善的になりかねません。若い頃に大学や類似の組織に所属し、診療と並行して論文作成のトレーニングを行うことは、良き医師としての基礎を築く上で重要であり、一生涯の財産となるでしょう。
「直美」を選ばず眼科専門医を目指す先生方、ぜひEBMを実践する良医を目指して、日眼会誌に投稿してくださいね~。

出典:日本眼科学会雑誌129巻3号







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