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脳活新聞:いろいろな病が「目に見える」― 年に1度は眼底検査を ―

更新日:4 日前

充実した生活を送るためには、視力を保つことが極めて重要。だからこそ、失明や視力の著しい低下を招く糖尿病や血管疾患はできる限り避けたい。一方で目を検査することで、これら内科的疾患の病状も推し測ることができるという。「目は特に糖尿病や脳、血管の疾患とつながっています。健康のバロメーターです」と久留米大医学部眼科学講座の主任教授・吉田茂生氏は語る。

※西日本新聞TNC文化サークル久留米教室の講座「脳活健康大学」を採録して抜粋・構成。


◆気付かぬうちに進行

◆増殖糖尿病網膜症


充実した食生活が送れるようになった一方で、日本では糖尿病の推定患者数が約2,000万人にのぼるとされています。およそ6人に1人が、糖尿病、あるいはその予備群と考えられています。

糖尿病に伴って起こる目の病気が「糖尿病網膜症」です。1980年代には後天的な失明原因の第1位でしたが、治療の進歩により現在は第3位となっています。それでもなお、失明原因の約1割を占める重要な病気であることに変わりはありません。


血糖値が高い状態が続くと、血流が悪くなり、網膜でVEGF(血管内皮増殖因子)という物質が増えます。VEGFは血管を新しく作るだけでなく、血管をもろくし、血液の成分が漏れやすくする働きもあります。その結果、網膜の血管や神経が障害され、出血やたんぱく成分の沈着が起こります。さらに進行すると、異常な血管が新たに生えてきます。


この新しくできた血管は非常に弱く、破れると目の中で大きな出血を起こし、急激に視力が低下します。また、血管が縮むことで網膜が引っ張られ、網膜剝離を起こすこともあります。こうした状態を「増殖糖尿病網膜症」と呼びます。


糖尿病網膜症の大きな問題は、自覚症状がほとんどないまま進行することです。一般的には、糖尿病発症から数年で眼底に小さな出血が見られることがありますが、この段階では視力はほとんど低下しません。さらに年月が経つと異常な血管が増え、進行した段階で初めて視力が低下します。この時点では、失明の危険が迫っていることも少なくありません。ただし、進行の速さや程度には個人差があります。


そのため、糖尿病と診断されたら、症状がなくても内科や眼科の専門医に相談し、定期的に眼底検査を受けることが重要です。「見えているから大丈夫」と自己判断している間にも、病気は進行していきます。


検査では眼底の状態を詳しく調べます。従来は、腕から造影剤を注射して血流を調べる検査が一般的でしたが、最近では造影剤を使わずに血管を観察できる機器も普及してきました。人工知能(AI)を活用した診断支援も、実際の医療現場で使われ始めています。治療法としては、抗VEGF薬の眼内注射、レーザー治療や硝子体手術などがあり、治療機器も年々進歩しています。


また、異常な血管の増殖によって起こる重い合併症に「血管新生緑内障」があります。これは治療が難しい緑内障で、抗VEGF薬の眼内注射、レーザー治療や、場合によっては手術が必要になります。


◆かすむ、ゆがむは

◆黄斑浮腫のサイン


糖尿病網膜症で視力が低下する原因として、もう一つ重要なのが「黄斑浮腫」です。網膜の中心部分(黄斑)に水分がたまり、むくんだ状態になります。適切に治療しないと、短期間で視力が大きく低下することがあります。


黄斑浮腫の原因もVEGFです。VEGFの影響で血管が傷み、血液の成分が網膜の中に漏れ出して黄斑にむくみが生じます。また、異常な膜が黄斑の上にでき、それが縮むことで症状が悪化することもあります。自覚症状としては、視力低下のほか、見たい部分がかすんだり、ゆがんで見えたりします。


治療にはレーザー治療、硝子体手術、ステロイド治療などがありますが、現在最も一般的なのは抗VEGF薬の眼内注射による治療です。目の中に注射で薬を投与し、適切に治療を続けることで、多くの場合、むくみは改善します。


抗VEGF治療は効果が高く、比較的早く症状が改善するのが特徴です。一方で、効果を維持するために繰り返し治療が必要になることが多く、医療費の負担が課題となる場合もあります。そのため、効果がより長く続くことを目指した新しい第二世代の抗VEGF薬も開発され、治療の選択肢が広がっています。


これらの目の病気は、糖尿病という全身の病気に伴って起こります。そのため、目の治療だけでなく、血糖や血圧、腎臓の状態を良好に保つことが重要です。生活習慣の改善や禁煙、長時間座り続けない工夫も大切です。内科医だけでなく、薬剤師、歯科医、保健師、ケアマネジャーなど、多職種が連携した治療が求められています。


◆加齢で有病率増加

◆網膜静脈閉塞症


脳卒中は脳の血管が詰まったり破れたりする病気ですが、同じようなことが網膜で起こるのが「網膜静脈閉塞症」です。いわば「目の脳卒中」と言えるでしょう。糖尿病網膜症に次いで多い網膜の血管の病気で、年齢とともに発症しやすくなります。


主な危険因子は、加齢、高血圧、動脈硬化、脂質異常症、糖尿病、緑内障などです。特に高血圧があると発症しやすくなります。また、若い人では膠原病などの全身疾患が原因となることもあります。


治療はレーザー治療のほか、現在では抗VEGF薬の注射によって症状を抑えられるようになりました。治療の継続が必要になることもありますが、以前は有効な治療が限られていたことを考えると、大きな進歩です。


網膜静脈閉塞症を起こした人では、脳卒中の発症リスクが高まると報告されています。眼底の出血は、全身の血管の状態を知る手がかりにもなるのです。


眼底は、血管を直接観察できる体の中で唯一の場所です。眼底の血管を調べることで、脳や心臓の血管の状態を推測することができます。高血圧や動脈硬化などの変化も、眼底検査から読み取ることが可能です。


そのため、自覚症状がなくても、少なくとも年に1回は眼底検査を受けることが大切です。眼科と内科が連携しながら、生活の質(QOL)を守る医療につなげていきたいと考えています。

出典:西日本新聞(2026年1月18日)

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